トモヤブルー

フーデリの配達料(副業)で株式投資やってます。本業は会社役員(不動産関連)です。

村上春樹の短編集『一人称単数』を読んで思ったこと

 

 

 

 

村上春樹の短編集、『一人称単数』を読んだ。

村上春樹の小説はもちろん長編も素晴らしいのだが、僕は短編も好きだ。

どれもこれも《奇妙》な話ばかりで、その話と世界観にぐいっと引き込まれてしまう。

 

この短編集の中では特に「クリーム」という短編が良かった。

伏線を回収する気なんてゼロ。

すべては謎に包まれていて、謎は謎のまんまそこに放置されている。

 

でも、そこがいい!

小説にしろ、映画にしろ、ドラマにしろ、昨今の日本のものはどれも《答え》がありすぎる。

 

村上春樹さんはどこかの本で最近の脳科学や心理学ブームに対して疑問を呈するようなことを書いていた。

直接的な表現ではないのだが、僕はそこにある種の「苛立ち」のようなものを感じることができた。

 

《人間の心というものは冷蔵庫の中の食材とは違うんだ。

もっと複雑で、一筋縄ではいかず、謎めいていて、簡単には理解できないものなんだ》

 

村上春樹さんの文章を要約するとそのような感じだったと思う。

「だから僕は物語を書いている」とも言っていた。

 

何でも明確な答えがあり、何でもスパッと割り切れて、伏線の類は必ず回収される、etc・・

そこに《謎》のようなものは一切ない。

すべての謎には必ず答えが存在する。

 

本当にそうだろうか?

 

僕は村上春樹さんが言わんとしてることが何となくわかる。

人間の心なんてわからないものだ。

その人が本当は何を考えているかなんて誰にもわからない。

 

だって、人間だから。

人間はロボットやコンピューター・プログラムじゃないから。

 

「はい、これこれこうだから、あなたはサイコパスですね」

「ほら、あの人のあの行動を見てごらん。あれは〇〇性人格障害の典型的な症状だよ」

etc・・

 

今、そういうものが流行っている。

そういうことを言う、脳科学者だか、心理学者だかがもてはやされている。

その連中はテレビなどで平気で人の心を分析する。

そして、「ああ、それはこうですね。なぜなら、こうだからです」というようなことを口にする。

 

人間の心はそんな簡単なものなのだろうか?

冷蔵庫の扉を開けて、そこに肉、じゃがいも、玉ねぎ、にんじんがあった。

だから、はい、カレーだね!

 

人間の心はそんなに単純なものなのだろうか・・

 

村上春樹さんの『一人称単数』という短編集を読んでいて、僕はそんなことを考えた。

どの話も不可解で、謎めいていて、最後の最後まで《答え》なんてものは用意されていない。

 

でも、人間ってそういうものじゃないか?

人生ってそういうものじゃないか?

 

「あいつが犯人だ! なぜなら、こうこうこうだから・・」という話が流行ってることは百も承知だ。

でも、村上春樹さんの小説はそういう理数系な話とは対極に位置している。

 

いい意味でも、悪い意味でも、『文系』だ。

村上春樹さんは《物語》を書く小説だ。

答えなんかどこにもない。

 

でも、文学ってそういうものじゃない?